建築プロジェクトの発注方式を完全比較|設計施工分離・DB・ECI・CM・IPD方式の選び方
- 4月22日
- 読了時間: 13分
更新日:4月24日
はじめに:発注方式の選択がプロジェクト成否を決める
建築プロジェクトを発注する立場になったとき、多くの事業主が直面するのが「どの発注方式を選ぶべきか」という問いです。設計施工分離、デザインビルド(DB)、ECI、CM、IPD——耳にする用語は増える一方で、それぞれの違いが分からないまま設計事務所やゼネコンから提案された方式で進めてしまうケースも少なくありません。
しかし発注方式の選択は、プロジェクトのコスト・工期・品質・リスク分担のすべてに影響する極めて重要な意思決定です。同じプロジェクトでも方式が違えば最終成果が大きく変わります。
本記事では、プロジェクトの発注方式を検討中の事業主に向けて、代表的な5つの発注方式(設計施工分離/デザインビルド/ECI/CM/IPD)のメリット・デメリット、4軸評価、規模別の推奨方式までを網羅的に解説します。
1. 発注方式の全体像:5つの基本パターン
まず、日本の建築業界で採用される代表的な発注方式を俯瞰します。
設計施工分離方式:設計者と施工者を別々に選ぶ従来型の方式
設計施工一括方式(DB方式/デザインビルド):1社が設計と施工を一括で担う方式
ECI方式:設計段階から施工予定者が技術協力する方式
CM方式:CMrが発注者支援として設計・施工を横断的にマネジメントする方式
IPD方式:発注者・設計者・施工者が初期段階から一体となって協業する方式
これらは排他的ではなく、CM方式は他の方式と組み合わせて適用されるのが実務の一般的なパターンです。また、コストオン方式のような工事契約の形態は、いずれの方式でも採用可能です。
2. 設計施工分離方式(従来型)
方式の概要
設計施工分離方式は、発注者が設計者と施工者を別々に選定・契約する伝統的な発注方式です。設計事務所が基本設計・実施設計を行い、完成した設計図書を基に複数のゼネコンから見積りを取って施工者を選定します。日本の公共工事では長らく原則とされてきた方式です。
メリット
設計の独立性・中立性が高い:設計者は施工者から独立しているため、発注者の要求を純粋に設計に反映できる
競争入札による価格の適正化:完成した設計図書を基に複数社から見積りを取れるため、市場価格が働きやすい
コスト構成の透明性:設計費と工事費が明確に分離され、内訳が把握しやすい
品質確保の仕組み:設計者が工事監理を行うことで、設計意図通りの施工が担保されやすい
デメリット
施工性への配慮が弱い:設計段階で施工者の知見が入らないため、施工難易度が高い設計になりがち
工期が長くなる:設計完了後に施工者を選定するため、全体工期が順送りで延びる
設計変更コストが発生しやすい:施工段階で「設計通りに施工できない」問題が発覚しやすい
責任の所在が曖昧になることがある:トラブル発生時に、設計の問題か施工の問題かの切り分けが難しい
適しているケース
公共工事のようにアカウンタビリティと競争性が重視されるプロジェクト、設計者のデザイン力が重要な象徴性の高い建築、設計内容が十分に固まっている標準的な建築プロジェクトに適しています。
3. 設計施工一括方式(DB方式/デザインビルド)
方式の概要
デザインビルド方式(DB方式)は、1社(または1共同企業体)が設計と施工を一括で担う発注方式です。発注者は要求水準書・与条件書を提示し、DB事業者が設計から施工までをワンストップで提供します。2014年の公共工事品確法改正により、公共工事でも採用が可能になりました。
メリット
工期短縮:設計と施工を並行進行できるため、全体工期を大幅に短縮できる
施工性に優れた設計:施工者の知見が設計段階から反映され、施工難易度が下がる
責任の一元化:設計・施工ともに1社の責任となり、トラブル時の対応が明確
コスト確定の早期化:概略設計段階で総工事費を確定しやすい
デメリット
発注者の監視機能が弱まる:設計と施工が一体化するため、チェック機能が働きにくい
価格競争が限定的:設計案が固まる前に事業者を選ぶため、価格の市場性が確保しにくい
コスト構成の不透明性:設計費と工事費の内訳が見えにくい
発注者の要求水準書作成能力が問われる:要求水準が曖昧だと、期待と異なる成果物になるリスク
適しているケース
工期短縮が最重要要件のプロジェクト、仕様が比較的標準化されている施設(工場、物流倉庫、チェーン店舗など)、発注者側に設計監理の専門性がない中小規模案件に適しています。
4. ECI方式(Early Contractor Involvement)
方式の概要
ECI方式は、設計段階から施工予定者(技術協力者)が参画し、技術協力を行ったうえで実施設計完了後に工事契約を締結する方式です。設計施工分離方式とDB方式の中間的なポジションにあり、施工者の技術力を設計に活かしつつ、設計と施工の契約は分離します。
メリット
施工の知見を設計に活用:複雑な構造・工法を採用する案件でも、施工性を考慮した設計が可能
技術協力による品質向上:専門工事の実情に即した設計が実現
コスト精査の精度向上:施工者が設計段階から関与するため、工事費の精度が上がる
契約分離による透明性:設計契約と工事契約が分かれるため、コスト構成は比較的明確
デメリット
技術協力者の選定に時間がかかる:設計段階で技術協力者を選ぶプロセスが追加される
価格交渉の難しさ:技術協力者がそのまま工事施工者になるため、後段での価格競争が働きにくい
実施事例が比較的少ない:日本での導入は道路橋・トンネルなどの土木分野が中心で、建築分野ではまだ限定的
適しているケース
特殊な構造・工法を伴う技術的難易度の高い案件、地盤・環境などの不確定要素が多いプロジェクト、大規模改修やリニューアル工事など、施工段階の知見が設計段階で不可欠な案件に適しています。
5. CM方式(コンストラクションマネジメント方式)
方式の概要
CM方式は、CMr(コンストラクション・マネジャー)が発注者支援の立場で設計・発注・施工を横断的にマネジメントする方式です。他の発注方式(分離・DB・ECI)と組み合わせて採用される点が特徴で、「分離方式+CM」「DB方式+CM」「ECI方式+CM」のように活用されます。
CM方式には、CMrが施工リスクを負わない「ピュアCM方式」と、最大保証金額(GMP)で施工リスクの一部を負う「アットリスクCM方式」があります。日本での実施事例の大半はピュア型です。
メリット
発注者側の専門性補完:建築の専門知識が乏しい発注者でも、CMrの支援で適切に意思決定できる
コスト・品質・工期の統合管理:4つの管理軸を一体的にコントロール
中立性の確保:設計者・施工者から独立した第三者として、発注者目線で判断
他方式との組み合わせ可能:プロジェクト特性に応じて柔軟に設計できる
デメリット
CM委託費が別途発生:設計費・工事費とは別にCM報酬が必要
発注者の意思決定負荷は残る:CMrは助言する立場であり、最終判断は発注者
CMrの選定自体に専門性が必要:信頼できるCMrの見極めが成否を左右
適しているケース
社内に建築専門人材がいない事業主、投資判断の説明責任が求められるプロジェクト、複数関係者の調整が必要な大規模案件、初めての建築プロジェクトに特に適しています。
6. IPD方式(Integrated Project Delivery)
方式の概要
IPD方式は、発注者・設計者・施工者など全ステークホルダーが企画段階から一体のチームとして協業する方式です。2007年に米国のAIA(アメリカ建築家協会)が提唱し、米国を中心に発展しました。BIM(Building Information Modeling)の活用を前提としており、リスクと報酬の共有、情報の一元化、フロントローディング(前倒し意思決定)が特徴です。
メリット
設計品質の最大化:全関係者の知見が企画段階から統合され、最適な設計が実現
意思決定の早期化:フロントローディングにより、手戻りコストを大幅に削減
BIMとの高い親和性:3次元データで情報を一元化し、設計変更の影響を即座に把握
リスクと報酬の共有:関係者間で責任転嫁が起きにくく、問題解決に集中できる
デメリット
日本での事例が極めて少ない:研究・検討段階が中心で、本格的な商用適用は限定的
契約・法制度の未整備:日本版IPD約款が整備されておらず、契約関係が複雑
コンティンジェンシー文化の不足:米国のような予備費(リスクの定量化)を前提とした発注者文化が日本にはない
初期投資の大きさ:プロジェクト初期から多くの人材を投入するため、人的リソースが必要
競争入札が働かない:工事発注時点での価格競争が不可能
適しているケース
現時点の日本では、BIMを全面活用できる先進的な事業主、複雑・大規模で関係者が多いプロジェクト、ライフサイクル全体での最適化を重視する施設運営者に適しています。ただし、国内での本格的な商用適用はこれからの段階であり、「日本版IPD的な協業」としてBIM活用を中心に部分的に取り入れるアプローチが現実的です。
7. 5方式の比較表(4軸評価)
コスト・工期・品質・リスク分担の4軸で、5つの方式を比較します。評価は相対的なもので、案件特性により変動します。
評価軸 | 設計施工分離 | DB方式 | ECI方式 | CM方式 | IPD方式 |
コスト透明性 | ◎ 高い | △ 低い | ○ 中 | ◎ 非常に高い | ◎ 非常に高い |
コスト競争性 | ◎ 競争入札 | △ 限定的 | △ 限定的 | ○ 方式次第 | × 競争なし |
工期短縮 | × 長い | ◎ 短い | ○ 中 | ○ 方式次第 | ◎ 短い |
品質確保 | ○ 設計監理で担保 | △ 監視機能弱 | ◎ 施工知見反映 | ◎ 統合管理 | ◎ 最大化 |
施工性配慮 | △ 弱い | ◎ 強い | ◎ 強い | ○ 中 | ◎ 非常に強い |
発注者リスク | 中(設計変更リスク) | 低(一元責任) | 中 | 中(助言で軽減) | 低(リスク共有) |
発注者負担 | 大 | 小 | 中 | 小(CMrが代行) | 中 |
日本での事例数 | 非常に多い | 増加中 | 限定的 | 増加中 | 極めて少ない |
8. 4軸でみる発注方式の評価解説
コスト軸:透明性と競争性はトレードオフ
コスト面では、透明性と競争性という2つの観点があります。設計施工分離方式は完成図書ベースの競争入札で市場価格が働くため競争性が高い一方、DB方式・ECI方式は競争性が下がる代わりに早期のコスト確定が可能です。CM方式は組み合わせる発注方式に依存しますが、CMrの見積査定により透明性は極めて高くなります。
工期軸:並行進行の可否が決定的
工期短縮を重視するなら、設計と施工を並行できるDB方式またはIPD方式が優位です。設計施工分離方式は各フェーズを順送りで進めるため、どうしても工期が長くなります。
品質軸:知見の統合が品質を決める
品質面では、施工の知見を設計にどこまで反映できるかが鍵になります。この観点ではIPD方式が最も優れ、次いでECI方式、DB方式と続きます。設計施工分離方式は設計段階での施工性配慮が弱く、施工段階で手戻りが発生しやすい構造です。
リスク軸:誰がリスクを負うか
リスク分担は発注者にとって最も重要な観点です。DB方式は設計・施工の責任が一元化されるため発注者リスクが低く、IPD方式は関係者間でリスクを共有する仕組みを持ちます。設計施工分離方式は設計と施工の責任境界が曖昧になりがちで、発注者が分担すべきリスクが相対的に大きくなります。CM方式は、CMrの助言により発注者が負うリスクを実質的に軽減する効果があります。
9. 規模別・特性別の推奨方式
実務的な観点から、プロジェクト規模・特性ごとの推奨方式を整理します。
小規模案件(〜5億円程度)
推奨:設計施工分離方式 または DB方式
備考:小規模案件でCM方式を採用するとCM報酬の割合が相対的に高くなるため費用対効果が下がります。仕様が標準的ならDB方式、意匠性やこだわりがあるなら設計施工分離方式が適切です。
中規模案件(5億〜30億円程度)
推奨:設計施工分離方式+CM方式 または DB方式+CM方式
備考:中規模以上になると、専門家による発注者支援の費用対効果が高まります。発注者側の体制補完としてCMrを起用し、ベースの発注方式は案件特性で選択するのが合理的です。
大規模案件(30億円〜)
推奨:設計施工分離方式+CM方式/ECI方式+CM方式
備考:大規模案件では関係者が多く、コスト構成の透明化と関係者調整の重要性が増します。CM方式の採用は事実上必須と考えてよいでしょう。技術的難易度が高い場合はECI方式との組み合わせも検討に値します。
緊急・復旧案件
推奨:アットリスクCM方式 または DB方式
備考:迅速性が最優先される案件では、工期確定性の高い方式が必要です。東日本大震災後の復興事業では、アットリスクCM方式が活用されました。
特殊用途・技術難易度の高い案件
推奨:ECI方式+CM方式
備考:半導体工場、医療施設、特殊構造物など、施工の専門知見が設計段階で不可欠な案件ではECI方式の価値が発揮されます。
BIM先進企業・CRE戦略案件
推奨:IPD方式(部分適用) または CM方式+BIM活用
備考:日本で純粋なIPD方式を導入するのは現時点では難しいため、BIMを活用した協業型プロセスとしてCM方式と組み合わせる「日本版IPD的アプローチ」が現実的です。
10. 発注方式を選ぶときの5ステップ
最適な発注方式を選ぶための実践的な手順を整理します。
ステップ1:プロジェクト特性の整理
規模、用途、工期制約、技術難易度、意匠性重視度、発注者側の体制などを洗い出します。
ステップ2:優先事項の明確化
コスト削減・工期短縮・品質確保・リスク低減・説明責任のどれを最も重視するかを明確にします。トレードオフを受け入れる覚悟も必要です。
ステップ3:発注者側の体制評価
社内に建築専門人材がいるか、意思決定スピードは速いか、CMrなどの外部専門家に頼る必要があるかを評価します。
ステップ4:方式候補の絞り込み
本記事の比較表と推奨方式を参考に、2〜3方式に絞り込みます。
ステップ5:専門家との相談
最終的な決定には、発注者の立場に立った第三者専門家(CMr/PMr)の助言を受けることを推奨します。設計者・施工者から直接提案を受ける前に、中立的な視点で方式設計を行うのが理想です。
まとめ:発注方式選びに「正解」はない
本記事のポイントを整理します。
日本の建築業界で採用される代表的な発注方式は設計施工分離/DB/ECI/CM/IPDの5つ
各方式にはコスト・工期・品質・リスクの4軸でトレードオフがあり、万能な方式は存在しない
CM方式は他方式と組み合わせて採用するのが実務の一般的なパターン
規模・特性別の推奨方式は異なり、プロジェクトごとの最適解を設計する必要がある
IPD方式は日本ではまだ普及段階にあり、本格適用は今後の課題
発注方式の選択に唯一絶対の正解はありません。自社プロジェクトの特性と優先事項を明確化し、信頼できる専門家の助言を得ながら、プロジェクト固有の最適解を設計する姿勢が重要です。
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