CM方式でなぜ建設コストが下がるのか|VE・オープンブック方式の仕組み
- 4月25日
- 読了時間: 11分

「CMフィーを払ってでもコストが下がる」は本当か
CM(コンストラクションマネジメント)方式の導入を検討したとき、経営層が必ず抱く疑問があります。
「CMフィーを支払ってまで、本当に建設コストが下がるのか?」
設計費と工事費に加えて、CM会社への報酬が新たに発生するわけですから、経営層として慎重になるのは当然です。委託費が数千万円規模になることもあるCM業務において、この疑問に納得のいく回答がないまま意思決定するのはリスクがあります。
結論から申し上げれば、適切なCM方式の運用により、建設コストの合理化は十分に実現可能です。しかし、それは「CM会社に頼めば自動的にコストが下がる」という単純な話ではなく、見積精査・分離発注・VE/CD提案・オープンブック方式という4つの仕組みが連動して初めて効果を発揮します。
本記事では、CMフィーに見合う効果があるか確信が持てない経営層に向けて、CM方式でコストが下がるメカニズムを第三者視点で論理的に解説します。また、削減額の試算例と、費用対効果の評価方法もあわせて整理します。
1. CM方式でコストが下がる4つのメカニズム
CM方式によるコスト合理化は、次の4つの仕組みの組み合わせで実現されます。それぞれが独立して効果を発揮するのではなく、互いに補完し合うことで総合的なコスト最適化につながります。
①見積精査の実務:見積内訳の妥当性を市場価格と照合
②分離発注による競争性:工事区分ごとの競争原理を働かせる
③VE/CD提案:設計段階での価値工学・コストダウン提案
④オープンブック方式:コスト構成の完全開示による透明性確保
以下、それぞれのメカニズムを詳しく見ていきます。
2. メカニズム①:見積精査の実務
見積精査とは何をするのか
CMrが担う中核業務のひとつが、見積精査(見積査定)です。設計者や施工者から提出される概算工事費、工事費見積、工事費内訳書について、CMrが建築の専門知識と市場データを基に妥当性を検証します。
精査の具体的な観点は次のとおりです。
市場価格との比較:各工事項目の単価が、市場実勢価格と比べて適正か
数量の妥当性:積算された数量が、設計図書から算出される数量と一致しているか
歩掛かりの妥当性:労務歩掛かりが実態に即しているか
経費率の妥当性:共通仮設費・現場管理費・一般管理費の比率が業界水準に照らして適正か
代替案の可能性:より合理的な工法・材料・仕様への変更余地がないか
なぜ発注者単独では困難か
建築専門家でない発注者が見積書を見ても、「この単価は高いのか安いのか」「この数量は正しいのか」を判断することは極めて困難です。仮に社内で建築士を雇用するとしても、コスト積算の実務に精通した人材は希少で、単発のプロジェクトのためだけに雇用するのは現実的ではありません。
CMrは、複数プロジェクトで蓄積した市場データベースと積算実務経験を持っているため、精査の精度と効率が圧倒的に高くなります。これが専門家に委託する価値の源泉です。
見積精査による削減効果の目安
第三者として控えめに申し上げれば、見積精査による削減効果はプロジェクト特性によって幅が大きいのが実情です。一般的には工事費総額の数%〜10%程度の削減が期待されるとされますが、これは「設計仕様の見直しを伴わない、純粋な見積単価の是正」のみの効果です。後述のVE/CD提案や分離発注の効果を加えると、全体の削減幅はさらに広がります。
3. メカニズム②:分離発注による競争性の確保
一括発注 vs 分離発注のコスト構造
従来の一括発注方式では、発注者はゼネコン1社と契約し、下請への発注はゼネコンが行います。この構造では、次のようなコスト上昇要因が生じやすくなります。
下請への発注価格がブラックボックス化:実際の下請発注額と発注者への請求額の間のマージンが見えない
ゼネコンの協力会社への固定発注:競争原理が働きにくく、慣習的な単価が維持される
「一式いくら」の見積構造:項目ごとの内訳が不明確なため交渉余地が見えない
CM方式+分離発注のコスト最適化
CM方式では、工事を複数の工事区分(パッケージ)に分割し、それぞれについて競争入札や見積比較を行うことができます。この仕組みで次のような効果が生まれます。
工事区分ごとの相見積り:各パッケージで複数社から見積を取ることで市場競争原理が機能
専門工事会社との直接交渉:コストオン方式と組み合わせれば、発注者が直接価格を決定可能
ゼネコン経由のマージン削減:一括発注時の管理費・利益の積み上げ構造を見直せる
スケールメリットの活用:複数プロジェクトで共通する工事区分を一括発注できる
分離発注にはリスクも
第三者として公平に記しますと、分離発注にはリスクもあります。各工事区分の工程調整・品質管理・安全管理を統括する責任が発注者側に移るため、CMrの支援なしに実行するのは困難です。CM方式と分離発注の組み合わせが機能するのは、CMrが統括管理機能を担うからです。
4. メカニズム③:VE/CD提案による設計段階の最適化
VEとCDの違い
VE(Value Engineering/価値工学)は、「機能を維持・向上させながらコストを下げる」提案手法です。単なる「安くする」のではなく、「同じ機能をより低コストで実現する」というのがVEの本質です。
一方、CD(Cost Down/コストダウン)は、「仕様や機能を一部落としてでもコストを下げる」提案です。発注者の要求水準と予算のギャップが大きい場合に検討されます。
CMrは、この両者を使い分けながら、プロジェクトのコスト最適化を支援します。
VE提案の具体例
VE提案の典型例を挙げます。
構造形式の見直し
同等の耐震性能を、より経済的な構造形式(ラーメン構造→壁式構造、RC→S造など)で実現
設備機器の型式変更:同等の性能を持つ他メーカー・他型式の機器への変更
内装材料の代替提案:要求性能を満たす、より経済的な材料への置換
工法の変更:工期短縮とコスト削減を両立する工法への変更(プレキャスト工法、ユニット工法など)
ライフサイクルコストの最適化:初期コストが多少高くても、ランニングコストを大幅に下げる提案
VE/CD提案の効果は「早期実施」が鍵
VE/CD提案は、設計段階が早ければ早いほど効果が大きいという特性があります。基本計画段階の提案は設計全体に反映できますが、実施設計完了後や工事発注後の提案は、設計変更コスト・工期影響により効果が限定されます。
CMrが基本計画・基本設計段階から関与することで、VE/CD提案の効果を最大化できる構造です。逆に、「工事が始まってからCMrを起用する」では、この効果はほとんど得られません。
5. メカニズム④:オープンブック方式による透明性
オープンブック方式とは
オープンブック方式は、発注者に対してコストをすべて開示する契約方式です。労務費、材料費、外注費といった直接工事費だけでなく、共通仮設費・現場管理費・一般管理費に至るまで、契約で定めた範囲で内訳がすべて発注者に開示されます。
アットリスクCM方式と組み合わせて採用されることが多く、「最大保証金額(GMP)+オープンブック」という組み合わせが代表的な形態です。
オープンブック方式がコスト削減につながる理由
情報の非対称性が解消されることで、次のような経済効果が生まれます。
不透明なマージンの排除:施工者が不必要に高い利益を上乗せしにくくなる
交渉余地の可視化:コスト項目ごとに交渉ポイントが明確になる
協力会社選定の最適化:発注者が下請企業の選定プロセスに関与できる
実費精算による適正価格:実際にかかったコストに基づく支払いとなる
オープンブック方式の留意点
第三者視点で公平に記しますと、オープンブック方式にも留意点があります。「すべてのコストが開示される」ということは、想定外のコスト増加も直接発注者に影響するということを意味します。そのため、GMPの設定でリスクの上限を明確化する仕組みが併用されるのが一般的です。また、実費を検証する専門性が必要となるため、CMrの支援が事実上必須となります。
6. 削減額試算例:CMフィーは回収できるか
経営層の意思決定を支援するため、削減額の試算例をシミュレーションしてみます。以下はあくまで仮定に基づく試算であり、実際の効果はプロジェクト特性で大きく変動する点にご留意ください。
前提条件
プロジェクト規模:建築工事費20億円(中規模案件)
CM委託費:工事費の2%(4,000万円)と仮定
ベースとなる発注方式:設計施工分離方式+CM
削減効果の試算(控えめな想定)
削減要因 | 削減率(控えめ想定) | 削減額 |
見積精査(単価是正) | 2% | 4,000万円 |
分離発注による競争効果 | 1% | 2,000万円 |
VE/CD提案による設計合理化 | 2% | 4,000万円 |
オープンブックによる透明化効果 | 0.5% | 1,000万円 |
合計削減額(控えめ想定) | 5.5% | 1.1億円 |
この試算では、CM委託費4,000万円に対し、削減額は1.1億円、ネット効果は7,000万円のプラスになります。投資対効果(ROI)で見れば、CM委託費の約2.75倍の削減効果が得られる計算です。
試算の読み方における注意
上記はあくまで控えめな想定に基づく試算です。実際の効果は以下のような要因で大きく変動します。
プロジェクト特性:複雑な案件ほどVE/CD提案の余地が大きい
市場環境:建設市況が過熱しているときほど見積精査の効果が大きい
発注タイミング:初期段階からの関与ほど効果が高い
CMrの実力:経験豊富なCMrほど削減効果を引き出しやすい
設計仕様の余地:オーバースペックがある場合ほど改善余地が大きい
逆に、すでに設計が完了し工事契約も済んでいる段階でCMを導入する場合、削減効果は限定的です。費用対効果を最大化するには、基本計画または基本設計段階からCMrを起用することが不可欠です。
7. コスト削減以外のメリットも経営判断に織り込む
CM方式の価値は、直接的なコスト削減だけではありません。経営層の意思決定においては、次のような間接的・定性的なメリットも織り込むべきです。
予算超過リスクの回避
CMなしの建設プロジェクトでは、当初予算から大幅に超過する事例が少なくありません。1割〜2割の予算超過が発生した場合、その絶対額はCMフィーを大きく上回ります。CM方式は「予算超過という下方リスクの保険」としても機能します。
工期遅延リスクの回避
工期遅延は、機会損失、稼働開始の遅れ、関係者への補償などを通じて多大な経済影響を発生させます。CMrが工程管理を担うことで、こうしたリスクも定量的に低減できます。
説明責任の確保
上場企業では、株主・投資家・監査機関への説明責任が求められます。経営判断の合理性を示す材料として、第三者CMrによる技術的検証は強力な裏付けになります。
経営層の負担軽減
建築プロジェクトの意思決定に経営層が大量の時間を投下すると、本業への影響が発生します。CMrがプロジェクト統括を担うことで、経営層は本業に集中できるというメリットも見逃せません。
8. 費用対効果を最大化する5つの条件
CM方式の費用対効果を最大化するには、次の5つの条件を押さえることが重要です。
①早期段階での起用:基本計画または基本設計段階から関与開始する
②業務範囲の明確化:CM業務委託契約約款に基づく具体的な業務委託書の作成
③実績のあるCMrの選定:類似案件経験を持つ信頼できる担当者を確保
④発注者側の意思決定体制整備:CMrからの助言に迅速に判断できる体制構築
⑤中立性の確認:設計者・施工者から独立した第三者であることを担保
これらの条件が整ったとき、CM方式は経営層が期待する費用対効果を安定的に発揮します。
まとめ:CMフィーは「コスト」ではなく「投資」
本記事のポイントを整理します。
CM方式によるコスト合理化は、見積精査・分離発注・VE/CD提案・オープンブック方式の4つのメカニズムで実現される
中規模案件(工事費20億円)の控えめ試算で、ネット効果7,000万円(CM委託費の約2.75倍)の削減が期待できる
効果を最大化するには早期段階での起用が不可欠。工事開始後の起用では効果は限定的
コスト削減以外に、予算超過・工期遅延のリスク回避、説明責任、経営層の負担軽減などの間接効果も大きい
費用対効果を最大化する5条件を押さえることで、CMフィーは「コスト」ではなく「投資」として機能する
経営層として意思決定する際、「CMフィーを払うか払わないか」ではなく、「どう活用すれば投資効果が最大化するか」という視点に切り替えることが、合理的な判断への第一歩です。
CM方式のご相談はフォレル合同会社へ
フォレル合同会社は、発注者の立場に立った建築プロジェクトのコンストラクションマネジメント(CM)/プロジェクトマネジメント(PM)を提供する専門会社です。経営層の意思決定を支援するため、プロジェクト特性に応じた費用対効果シミュレーションと、具体的なコスト削減プランをご提案します。
フォレル合同会社の強み
定量的な効果予測:お客様のプロジェクト特性を基に、見積精査・VE提案・分離発注それぞれの削減効果を試算してご提示します
早期関与によるVE最大化:基本計画・基本設計段階からの関与により、VE/CD提案の効果を最大化します
発注者目線の中立性:設計者・施工者から独立した第三者として、お客様の利益を最優先に判断します
経営層への説明支援:CM導入の費用対効果を、経営会議や監査対応に耐える形で資料化します
こんな経営層の方へ
CM方式の導入を検討しているが、費用対効果が見えないため意思決定できない
社内稟議でCMフィーの説明責任を果たす必要があり、根拠データが欲しい
進行中のプロジェクトで予算超過懸念があり、早急に第三者視点を入れたい
建設市況の高騰を受け、コスト最適化の手段を模索している
上場企業として、建設投資の合理性を株主・投資家に説明する必要がある



